ロック史に残るアートギターの物語をたどるシリーズ「伝説のアートギター列伝」第5弾。これまでは既存のギターに絵を描いたり、パーツを寄せ集めたりした物語を紹介してきました。
今回は少し違います。形そのものが、アートだった——プリンスの「クラウドギター」の物語です。
1983年、ミネアポリスの楽器店で
物語の始まりは、1983年のミネアポリス。Knut-Koupée Musicという楽器店に、常連客だったプリンスが訪れます。
ちょうど出勤してきた工房スタッフのデイヴ・ルーサンは、店主からこう告げられました。「プリンスが映画を撮る。ギターが必要だ。君が作ってくれ」——その映画こそ、後に世界的ヒットとなる『パープル・レイン』でした。
プリンスの注文は明確でした。1970年代のSardonyx(サードニクス)というベースをベースにした形、白いボディ、ゴールドのハードウェア、EMGのピックアップ。ルーサンは1か月間、1日10時間を費やしてこのギターを作り上げ、1983年11月の撮影開始前に届けました。
なぜ「形」が伝説になったのか
クラウドギターの特異さは、ボディの形そのものがアイコンになった点にあります。
- 唯一無二のシルエット:上部が優雅に伸び、下部が丸みを帯びた曲線。ストラトでもレスポールでもない、見た瞬間に「プリンスだ」と分かる形
- 映画という舞台:『パープル・レイン』のスクリーンで世界中が目撃した
- アーティストの身体の一部:小柄なプリンスが構えたときのバランスまで計算された造形
ルーサン自身、後にこう語っています。「もしうまくいかなければ、『パープル・レイン』に映っていたのは白いストラトだったかもしれない」——1か月の作業が、映画史・音楽史の風景を決めたのです。
4本のクラウド、そして91万ドル
ルーサンは1980年代半ばまでに、プリンスのために4本のクラウド系ギターを製作しました。最後の1本は、1985年にワーナー・ブラザースが主催した懸賞のプレゼント用だったといいます。
その価値は年月とともに高まり、レモンイエローに塗られアクティブEMGを搭載した「Cloud 3」は、オークションで91万ドルという価格で落札されています。
シリーズ5本を並べて見えること
| ギター | アートの在り方 |
|---|---|
| The Fool | 量産ギターの表面に描いた |
| モンタレー・ストラト | 本人が表面に手描きした |
| フランケンシュトラット | 中身を寄せ集めて作った |
| レッド・スペシャル | ゼロから手作りした |
| クラウドギター | 形そのものをデザインした |
面白いのは、5本とも「既製品では満足できなかった」という一点で共通していることです。塗るか、組むか、作るか、形を変えるか——手段は違っても、動機は同じでした。
そしてその多くが、無名の職人や本人の手によるものだったことも見逃せません。クラウドギターを作ったのは有名ブランドではなく、楽器店で働く一人のスタッフでした。
「自分だけの一本」を作るということ
私たちがこの事業を始めたのも、同じ気持ちからでした。クラプトンやハリスンのようなギターが欲しかった。でも売っていなかった。だから、自分で作ることにしたのです。
JUNK GUITAR ARTでは、役目を終えたギターに高品質フィルムでオリジナルデザインをラッピングし、世界に一本のアートギターとして蘇らせています。ボディの形までは変えられませんが、「見た瞬間にあなたのものだと分かる一本」は作れます。
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よくある質問(FAQ)
クラウドギターは誰が作ったのですか?
ミネアポリスの楽器店Knut-Koupée Musicで働いていたデイヴ・ルーサンが、1983年に製作しました。プリンスからの依頼を受け、約1か月かけて作り上げたと語られています。
クラウドギターは何本作られたのですか?
ルーサンは1980年代半ばまでに、プリンスのために4本のクラウド系ギターを製作したとされています。そのうち1本は1985年、ワーナー・ブラザース主催の懸賞用に作られたと伝えられています。
クラウドギターの落札価格はいくらですか?
レモンイエロー仕上げの「Cloud 3」が、オークションで91万ドルで落札されたと報じられています。オークション価格は出品時期や状態によって変動します。
自分のギターも特別な見た目にできますか?
できます。手描きのペイント、水面の模様を転写するマーブリング塗装、デザインをフィルムでラッピングする方法などがあります。ボディの形状変更は専門的な加工が必要ですが、外観のデザインであれば比較的手軽に変更できます。
まとめ|楽器店のスタッフが作った、世界一有名なギター
クラウドギターは、大企業の開発チームではなく、街の楽器店で働く一人の職人が、1か月かけて作り上げた一本でした。それが映画のスクリーンに映り、世界中の記憶に刻まれ、やがて91万ドルの価値を持つに至った——。
「既製品では物足りない」。その気持ちさえあれば、誰でも物語は始められるのかもしれません。
- ▶ 第1弾:クラプトン「The Fool」と「CRASH」
- ▶ 第2弾:ジミヘンが燃やした「モンタレー・ストラト」
- ▶ 第3弾:130ドルのジャンク「フランケンシュトラット」
- ▶ 第4弾:暖炉の木で作られた「レッド・スペシャル」
- ▶ 関連:サイケデリック・アートとは|ギターアートの原点
参考:Premier Guitar、Guitar World、Guitar.com、RR Auction 各記事(2026年8月時点の情報に基づく)

